府立高校の卒業アルバムの教職員の顔写真を非公開とすることについて
これまで情報公開請求の公開対象であった「府立高校の卒業アルバムの教職員の顔写真」が、なぜか突然非公開になった経緯について説明しています。
高等学校課説明資料
令和6年6月21日
教育庁 高等学校課
府立高校の卒業アルバムの教職員の顔写真を非公開とすることについて
1 これまで、当課では、府立高校の卒業アルバム(教職員が掲載されている部分)の情報公開請求があった場合、教職員の顔写真及び名前が掲載されている箇所の全部の写しを公開してきた。
2 今般、これまで公開してきた教職員の顔写真が、インターネット上で不特定多数に公開されていることが判明した。これは、当該教職員の肖像権の侵害にあたる可能性がある。(以下、「本件」という。)
3 本件について、6月19日に、大阪法務局 人権擁擁護部第二課に伺いインターネット上に公開された教職員の顔写真について、同局からプロバイダへの削除要請が可能か相談した結果、
(1) 顔写真を掲載された本人が、居住地の最寄りの法務局に赴き人権侵害を申告する必要があり、府が本人からの同意を得て代理で、人権侵害を申告することは難しい。
(2) 本人からの申告であっても、何がどのように人権侵害なのかを明示しなければならず、安易にHP作成者の表現の自由を制限することはできない。
(3) 本人から申告があり、本件が人権侵害であると認められた場合、同局からプロバイダに対して、削除要請は行うが、これに強制力はない。
とのことであった。
4 また、6月20日には、府警本部に伺い本件を相談した結果、
(1) 肖像権の保護は、刑法令に抵触しないため、所管外とのこと。
(2) 名誉棄損や侮辱罪に該当する場合は、本人から被害届を出すこと。府が代理で被害届を出すことはできない。
(3) 児童ポルノなど刑法に触れる場合であっても、HPの削除は、府警からの要請に留まり、強制力はない。とのことであった。
5 さらに、6月21日に、府情報公開課にも助言を求めたところ、「氏名や顔写真は通常は個人情報であるが、公務員の職務に関連する情報である場合には、例外的に公開できるに過ぎない。顔写真までは職務に関連する情報ではないとして、非公開と判断することも差支えない。よって、教育委員会において、卒業アルバムの教職員の顔写真を非公開とすることに異論はない。」とのことであった。
6 近年、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)等のインターネット上において、個人情報の暴露などの問題が多数発生することに相まって、肖像権という比較的新しい権利の保護意識が高まってきてはいるが、上記3,4のとおり、一度公表されれば、本人の意思に関係なく「デジタルタトゥ」となり、容易には回収できず残り続け、公開され続けることとなる。
7 今後も、これまでと同様に、情報公開請求に応じれば、顔写真がSNS等のインターネット上において、不特定多数に公開される蓋然性が非常に高いため、今般、本件が発覚したことを機に、本日以後、顔写真は「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に該当するものと、捉えなおしたうえで、非公開とする。
8 なお、今後も、非公開とせず、公開とした場合は、卒業アルバムへの写真の掲載を望まない教職員が多数となり、生徒が高校生活を振り返る卒業アルバムの編纂に支障を来すことが予期される。
【参考】
(公開してはならない行政文書)
第九条 実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている行政文書を公開してはならない。
一 個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもの(以下「個人識別情報」という。)のうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの
→【元データ】R6教高2076
文書情報
令和6年度 教高第2076号
起案日 令和6年6月21日
決裁日 令和6年6月24日
施行日 令和6年6月24日
行政文書公開請求(第268号)に対する部分公開決定通知及び複写作成費用等の収入について
起案:高等学校課 高等学校/生徒指導グループ 大辻 民基
校合:西巻勝弘
決裁関与者
林田 照男[高等学校課][課長] 決裁者
田尻 誠[高等学校課][参事]
北村 宏貴[高等学校課][参事]
武下 一秀[高等学校/学校経営支援グループ][課長補佐]
西巻 勝弘[高等学校/生徒指導グループ][課長補佐]
北野 賢一[高等学校/生徒指導グループ][課長補佐]
今谷 康太[高等学校/生徒指導グループ][主査]
関係者
山下 真慧[高等学校/生徒指導グループ][一般職員等]
荒木 夏子[高等学校/生徒指導グループ][一般職員等]
岡崎 龍雄[高等学校/生徒指導グループ][一般職員等]
岡田 厚志[高等学校/生徒指導グループ][一般職員等]
馬場 脩平[高等学校/生徒指導グループ][一般職員等]
太田 真希子[高等学校/生徒指導グループ][一般職員等]
甲田 菜津美[高等学校/生徒指導グループ][一般職員等]
インターネット上で不特定多数に公開されている教職員の顔写真
参考のため、「インターネット上で不特定多数に公開されている教職員の顔写真」を再掲します。
→【元ページ】ピックアップ写真
判例にみる「肖像権」
ここで、「肖像権」について、近年の判例を確認してみましょう。
東京地裁令和4年10月28日判決(R3(ワ)28420号(本訴)、R3年(ワ)34162号(反訴))
裁判所ウェブサイト搭載(PDF)、判タ1513号232頁、判時2555号15頁
→知財高裁令和5年3月30日判決(R4(ネ)10118号(控訴)、令5(ネ)10018(附帯控訴))
第4 当裁判所の判断
(中略)
3 争点2(本件逮捕動画の投稿による肖像権・プライバシー権侵害の成否)について
(1) 肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有すると解するのが相当である(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁(引用注:京都府学連事件)、最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁(引用注:法廷内写真撮影事件)、最高裁平成21年(受)第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁(引用注:ピンク・レディー事件)各参照)。
他方、人の容ぼう等の撮影、公表が正当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で撮影、公表等する行為は、
@撮影等された者(以下「被撮影者」という。)の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき、
A公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき、
B公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。
本ウェブサイト掲載の「教職員の顔写真」が肖像権を侵害するか否か
肖像権侵害については、上記判例により3つの例が示されましたので、これを順に当てはめていきます。
まず、
@被撮影者の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないときについては、
卒業アルバムという公文書の特性上、「被撮影者の私的領域において撮影し又は撮影された情報」ではありません。
次に、
A公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるときについては、
本ウェブサイトでは単に卒業アルバムから顔写真をピックアップし、氏名と併記して掲載しているに過ぎないので、「当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき」ではありません。
最後に、
B公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときについては、
上記と同様に本ウェブサイトでは単に卒業アルバムから顔写真をピックアップし、氏名と併記して掲載しているに過ぎないので、「当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるとき」には到底当てはまるものではありません。
そうすると、本ウェブサイトでは肖像権侵害を行なっていないことが明らかであり、大阪府教育委員会(教育庁高等学校課)が、「当該教職員の肖像権の侵害にあたる可能性がある」などとして、府立高校の卒業アルバムの教職員の顔写真を非公開としたことについては、大阪府情報公開条例および同解釈運用基準に反するものであり、違法・不当であることは明らかです。
そもそも、「肖像権を侵害する可能性がある」などとして予防的に公文書を非公開とすること自体が違法・不当です。
仮に、実際に肖像権を侵害する事案が生起した場合には、別途法律に従って対処をすれば良いのであって、これを予防的に非公開とすることは到底許されません。
そうした論理が許されるのであれば、「殺人事件が起こる可能性があるので包丁は販売しない」という主張が正しいと言うことになります。
大阪府教育委員会はこれまでにもこうした違法・不当な決定(情報公開請求にかかるもの)を行なっている経緯からも、法的措置が待ったなしの状況と言えます。
今後の進展については、乞うご期待。
おことわり:
このWEBサイトのドメインとなっている「kocho-shine」は、『鬼滅の刃』鬼殺隊の「柱」として活躍する女性である「胡蝶しのぶ(kocho)」をモチーフに、男女共同参画社会が進展する中で「輝く(shine)」未来を創造することを目指して名付けられています。
また、画像については、大阪府教育委員会により行政文書として公開されたものです。